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CBC株式会社のインダストリアル オプティクス デパートメント(Industrial Optics Dept)は、光学レンズのメーカー部門として、「computar(コンピューター)」ブランドを中心とした光学関連製品の営業、企画やマーケティングを行っています。
今回は、約半世紀にわたり産業用レンズ専門メーカーとして歩んできた道のりを振り返りつつ、産業光学事業を展開する中で生きている商社ならではの強みや、同部門の今後の展望を伺いました。
「商社でありメーカー」の先駆けとなった、CBC産業光学事業
インダストリアル オプティクス デパートメント(以下、IOD)は、産業用光学機器を専門に取り扱う部署。街中の監視カメラや製造現場の検査用機器など様々な産業用機器に搭載される「非民生用レンズ」を、「computar」ブランドで生産・販売しています。
IODが現在の体制になったのは、2024年の4月のことです。当時CBCの子会社だったコーヤル光学株式会社の統合に伴い、CBC社内でも関連部門を再編。IOD担当者は、この再編の目的について「それぞれの強みを集約し、より幅広いニーズに応える体制を整えるため」と語ります。
大量生産品を得意としていたCBCに対して、多品種少量生産のニッチで専門性の高い製品に強みを持つ旧コーヤル光学。グループとしての技術開発力をさらに高めるため、両社に分散していた人材を一箇所に集約し、設計・開発、品質保証や生産管理に注力する新会社「CBCオプトテクノロジーズ株式会社」を発足させました。
一方のCBC本社IODは、営業/企画マーケティング Gr(以下、営業/企画グループ)として営業やマーケティング機能を担っています。その両社で連携しながら、光学機器の企画から開発・製造・販売・アフターサービスまでを一貫して手掛けています。
もともと、CBCが産業光学事業に取り組むようになったのはおよそ半世紀前。他社の光学製品を販売代理店として取り扱ったことがきっかけでした。その後より多角的な事業展開を目指し、1974年には自社でCCTV監視用レンズの製造に着手。固定焦点レンズ、マニュアルアイリスレンズや監視用ズームレンズを販売するようになり、その後1981年に自社ブランドとなる「computar」が立ち上げられました。 実はCBCの歴史において、販売だけでなく製造を手掛けるようになったのは産業光学事業が初めて。この挑戦が「商社でありながらメーカー機能を持つ」という、今では当たり前になったCBCの在り方を作ったのです。
「メーカーでありながら、商社マインドを持つ」IODの強み
CBCの産業光学事業の強みについて、IOD担当者は「メーカーでありながらも、商社マインドを持っていること」だと言います。その特徴が色濃く現れるのが、同部署の「仮説を立てる」製品企画プロセス。新しい光学機器の企画・設計の際、IODが重視しているのは「将来的に必要とされる製品」を目指すことなのだとか。
「メーカーとして作りたい製品」や「今まさにお客様が求めている製品」だけではなく、市場や需要の変化を読み「将来的にお客様が必要になる」製品を提案すること。こうした市場動向を読んだ提案は、世界各地のお客様と接する中で情報収集を行っているIODならではの特徴です。
また「商社マインドを持つメーカー」としての特徴は、営業活動でもIODの強みになっています。IODの営業担当者は、機器に関する研修やトレーニングを通して、営業でありながら光学機器に関する専門知識を身につけています。一般的には、お客様との関係構築や課題の聞き取りを営業担当者が、具体的なソリューションの提案を技術者が、それぞれ担当します。しかしIODの営業活動では、技術者が担当すべき領域を営業担当者が受け持つことも少なくありません。より個別性の高い案件は技術者が担当するものの、「標準的な提案であれば、営業担当者でも対応できるようにしている」(IOD担当者)といいます。
こういった取り組みの背景にあるのは、近年のお客様の要望の複雑化や、市場の変化のスピードです。近年は技術の発展に伴い、お客様からの要望もますます複雑化しています。 市場変化の速度も相まって、営業活動でも「お客様の元に足を運ぶ」フットワークに加えて、素早い提案が求められるように。営業担当者にも、単なる販売活動にとどまらない役割が必要になっているのです。 CBCオプトテクノロジーズの技術者とCBCの営業/企画グループの営業担当者、それぞれの印象について、IOD担当者は「お互いに、協力し合う意識が高い社員が多い」と語ります。光学製品ブランド「computar」のイメージカラーは紫色。これは「熱い商社マインド」を象徴する赤と、「冷静で誠実」である技術者マインドを表す青を組み合わせたものです。 「メーカーマインドを持つ営業担当者」と「商社マインドを持つ技術者」によって、「商社マインドを持つメーカー」という、CBCの産業光学事業の強みが支えられているのです。
「かゆいところに手が届く製品」で市場のあるべき姿を作る
現在のIODは、光学機器事業を起点に価値創造に取り組んでいます。
その1つが、レンズから派生した新規事業の展開。カメラ機器、AIソフトウェアなど、多岐にわたる領域を視野に入れ、事業の裾野を広げようとしています。
近年の電子機器は、それ単体で使用するのではなく、大規模なシステムに組み込んで使用するのが一般的。光学機器も同様で、IoT機器やAIアプリケーションなど、様々なシステムと連携させて使用できることが必要条件になりつつあります。そういった環境変化を 受けて、今後IODが取り組んでいくのが、光学機器を中心にした「ソリューションを提供していく」こと。
具体的には、光学技術を核とし、AIや画像処理を活かした制御デバイスとの連携によるソリューションなど、光学機器に留まらない提案の幅を持って、お客様の課題に応えていく予定です。現在はパートナー企業への投資やM&Aなど様々な方法を検討しながら、より総合的で付加価値の高い提案ができるような体制構築の計画を立てています。
そして価値創造に向けたもうひとつの取り組みが、「レンズの国際標準化活動」。世界で流通するレンズの規格統一に向けた取り組みで、IODは、16社・合計約50名が参加しているこの活動のリーダーを務めています。
レンズの性能向上や品質安定化だけでなく、業界全体の発展にも国際標準化は必要不可欠。「将来に繋がる製品を市場に定着させるためには、自ら標準化活動に取り組まないといけない」と担当者が語るように、IODとして、光学機器業界の「あるべき姿」を見据えた取り組みにも力を入れています。 最後に「computar」ブランドの光学機器の魅力をIOD担当者に尋ねると、「企画性があり、かゆいところに手が届く製品であること」と語ってくれました。
実際にお客様からは「開発の判断が早く、いい意味で日本企業らしくない」とご評価いただくことも多いといいます。こうした製品を生み出せるのも、技術者だけでは実現しにくい「お客様のニーズを踏まえた企画力」によるものなのです。
IODは今後も、これまでの取り組みを通じて培った強みを生かし、光学機器業界において他社には真似できない独自の存在を目指していきます。
文=スギモトアイ/取材・編集=伊藤 駿(ノオト)