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2023年8月、CBCグループに新たに加わった「日本純良薬品株式会社」。ニチジュンの愛称で親しまれる同社は、水添(すいてん)反応をコア技術とし、近年ではより多様な中間体の生産も手掛けています。
CBCグループ入りを機に、さらなる成長を目指す同社の取り組みについて伺いました。
水添反応の力で、中間体から産業を支える
日本純良薬品は、水添反応技術を中心に、有機合成を手掛ける化学メーカーです。
水添反応とは、特定の原材料に金属触媒を加え、そこへ水素を付加することで、原材料の性質を変化させる還元反応の一種。「水素還元反応」あるいは「水素化」と呼ばれることもあります。日本純良薬品では、この水添反応をコア技術とし、さまざまな分野で使われる「中間体」を製造しています。
中間体とは、製品として世の中に出る前の「素材の素材」にあたるもの。同社の中間体が素材として使用されている製品はとても幅広く、医薬品や化粧品、農薬など、多岐にわたります。しかし、中間体は最終製品には姿を残さないことがほとんど。そのため同社の担当者は「私たちの手掛けた製品がどこで使われているか、説明するのがとても難しいんです」と語ります。
そんな中でも比較的イメージしやすい具体例が、「アミン」という化合物です。これは、水添反応によって同社が生産している中間体の1つで、「ポリイミド」と呼ばれる樹脂材料の原料として使われています。
ポリイミドは、耐熱性や絶縁性、耐衝撃性に優れたプラスチック素材です。他の樹脂では対応できないような高温環境にも耐えられる強みから、パソコンに使われる電子基板や半導体の製造装置、絶縁保護フィルムなど、様々な場面で活用されています。電子機器の発熱への対応が不可欠である電子材料に用いるプラスチック素材として、近年特に需要が高まっているのだとか。
日本純良薬品では、お客さまがどのように素材を使用するのかを事前にヒアリングし、用途に応じた最適な形で中間体を提供しています。その中でも、製造した製品の供給形態で大半を締めているのが、「粉体」。使用方法によっては、液体や固体で提供されるケースもあります。
電子材料の素材から、薬・農薬といった薬品まで。日本純良薬品は「製造現場の根幹を支える『素材の素材』」を手掛ける企業として、さまざまな製品の基盤となる高品質な中間体を提供し続けています。
戦後から培ったノウハウによる対応力と、安定した品質

水添反応は、原材料に水素ガスを加える際の圧力によって、「高圧水添」と「低圧水添」 の2つに大別されます。高圧水添は、数気圧から数百気圧といった高圧環境下で行われる反応方法です。反応速度が速いという利点がある一方で、必要な設備は大規模になり、設備投資の負担も大きくなります。
加えて高圧水添では、高圧下で水素ガスを扱うことによる、危険性のリスクも見過ごせません。水添反応に不可欠な水素ガスは、可燃性が非常に高い、取り扱いには資格が求められる危険物です。そうしたガスを高圧下で扱うことは、作業現場におけるリスクにも直結するのです。

加えて、要求される中間体の純度や仕様に合わせ、製造条件を柔軟に最適化できる点も同社の強み。用途に応じた触媒の使い分けによる品質の安定化や、触媒リサイクルによるコスト削減といった独自技術を数多く有しており、手掛ける中間体やその目的に合わせて、プロセス全体を最適化する取り組みを行っています。
このような日本純良薬品が持つ強みは、戦後から続く、同社の長い歴史の中で培われたものです。

同社は戦後から水添反応に取り組むようになり、最初は医薬品、染料・顔料、そして電子材料と、時代の変化にあわせて、その取り組みを拡大してきました。その過程で幅広い領域に関わる「水添反応のノウハウ」が社内に蓄積され、新しい製品を手掛ける際も、過去の経験から最適な製造・管理体制を築くことができるようになりました。
こうした、販売先ごとに異なる品質や製造管理の要件に対応できることも、同社の蓄積されたノウハウによるもの。担当者も「業界や用途に合わせた経験を一通りし、それがノウハウとして蓄積されている会社はなかなか無いはず」と自信をのぞかせます。戦後からの実践を通じた知見の積み重ねが、日本純良薬品の技術的な基盤を支えているのです。
事業の第二の柱を築くために——電子材料にかける次の一手
これまで水添反応を活用した製品を主軸としてきた日本純良薬品ですが、近年では「水添に頼らない事業分野」でも事業を展開しています。その1つが、需要が高まり続ける半導体をはじめとした、電子材料分野です。
半導体の生産プロセスでは、シリコンウエハーに回路パターンを転写する工程で「フォトレジスト」と呼ばれる樹脂材料が使われます。日本純良薬品が手がけているのは、そのフォトレジストを構成する原料のひとつ。
半導体の製造プロセスで用いられるフォトレジスト材料は、不純物があると品質や性能に影響を及ぼします。そのため、製品の原料であっても残留金属(加工の過程で、意図せず製品に残った微量金属のこと)を極限まで減らすことが求められるのです 。この金属を除去する工程には、繊細かつ高度な技術が必要。そのプロセスにも日本純良薬品ならではのノウハウが生かされています。純度が高く安定した品質の原料として、同社の製品は高く評価されているそう。
フォトレジストでは、世界シェアの約9割を日本企業が占めています。これを支えているのが、ポリマーや感光材をはじめとする各原料の精度の高さと信頼性です。同社が手がける原料は国内のフォトレジスト製造において欠かせない材料の1つであり、今後の日本の半導体産業の発展を支える存在となることが期待されます。
現在、日本純良薬品では、より一層市場のニーズに応えるべく、電子材料関連事業のさらなる拡大に向けた準備を進めています。
3つある同社の事業所のうち、今は福井事業所の設備拡大に着手しており、今後はより大規模な生産体制を構築していく予定です。この新しい成長領域について、「これまでは水添の技術1本でやってきたが、そろそろ『第二の柱』を立てたい。電子材料がその役割を担ってくれたら」と、同社担当者は期待をにじませます。

事業改革と環境づくりで、「次のニチジュン」を目指す
2023年8月、日本純良薬品はCBCグループの一員となりました。電子材料分野においてメーカー機能を持ちたいCBCと、同分野を新たな事業の柱としてさらに発展させていきたい日本純良薬品。その両社の思いが一致し、グループインが実現したといいます。
グループ参加後の変化について、日本純良薬品の担当者は「より長期的な視点で、大きな投資計画を立てられるようになった」と語ります。現在は電子材料をはじめとする生産設備の拡大を進めており、先行投資によって「新しい成長エンジンを自社の中に育てること」が目下の目標です。
そして、成長に向けて欠かせないもう1つのテーマが、「社員が働きやすい環境づくり」です。
これまでの水添事業では、危険物や重量物を扱う作業が多く、体力的な負荷も大きいことから、同社の技術者はほとんど男性が占めていました。これからは、そうした工場環境を大きく見直し、性別を問わず、誰もが安全に安心して働ける職場づくりを目指しています。
新しい事業を通じて、より持続的に成長できる企業へ。「水添のニチジュン」として信頼を築いてきた土台の上で、今、まさに新しい会社の在り方を追求するチャレンジは始まったばかりです。
水添で培った力を生かし、電子材料分野という次のステージへと進むことで、今後はCBCグループの中でもひときわ強い存在感を放っていくことでしょう。

文=スギモトアイ/取材・編集=伊藤 駿(ノオト)